自分は神を唯一殺せる存在でブレードチルドレンにとって希望の存在なのだ、といわれていても、
いくら論理を創りつづけ、神に勝ったとしても、

結局最後には「死」しか残らない者が、すべての事に逃げてしまいたいと思うことは罪なのだろうか。








「お疲れですか、鳴海さん?」
「は?」

いつもの新聞部部室で、いつものように料理雑誌を読みふけていた歩は、この部室の主であるひよのが
唐突に言い放った言葉に目が点になっていた。

「いえ、なんとなくですが鳴海さんの顔色が優れないかなーと思いまして」

普段あまり自分の事に気を遣わない、というか全てにおいて気を遣わない歩にとって、顔色が悪いと言われてもあまりピンとはこなかったようだ。

「そんなに顔色悪いか?」
「凄いって訳ではないですが、でもあまり良くないような気がします」
「そうか」

歩は対して気にする訳でもなくまた料理雑誌に目を落とす。すると、何となく心配そうな目をしたひよのが歩の顔を覗き込んできた。

「もしかして心労溜まってます?」
「心労がないといえば嘘になるだろうな」

清隆の事、ブレードチルドレンの事、そして自分の事。問題は山積みの歩にとって、心労の一つや二つあってもおかしくないだろう。
しかし、ひよのの心配をよそに歩は平然と言い放つ。

「まあ、心労が溜まったところで差し障りはないさ」
「何故です?」
「オレに残された時間は短いからな。否応でもその時が近づいてきたら、疲れなんて気にすることはないだろ?だから差し障りがないんだよ」

そんな歩の言葉に、ひよのは形の良い眉を落として困惑気味に歩に問い掛ける。

「……もう諦めていらっしゃるのですか?」

その問いに歩は雑誌に落としていた目線をひよのに向け、自嘲気味に笑った。

「まさか。最後の最後まで足掻いてやるつもりさ。ただ……」
「ただ?」
ひよのから目線を外し、窓の外をじっと見つめる歩をひよのはきょとんとした表情で見つめた。

「何もかも放り投げて逃げ出したいという気持ちは捨てきれないな。まあ、無理だろうけど」

どこか遠い眼差しでそう言う歩に、ひよのは言葉を失う。
いまどんな言葉を言ったとしても、歩にとっては何の意味もなさないことをひよのは感じ取っていた。




幾分か経って、ひよのは徐に開いた。

「なら一緒に逃げ出しませんか?」

可哀想とか、代われるものなら代わってあげたい、などという軽々しい慰めなど歩は望んでいない事をひよのは十分知っている。
知っていたからこそ、あえてこの言葉を口にした。
歩は目を瞬かせて、再びひよのを見やる。

「……あんたと2人で?」
「はい」

笑いながら頷くひよのに、歩はひどく一般的な質問で返した。

「どこに?」
「う〜ん、そうですねぇ…どこと言われても、世界は広いようで狭いですし…まあ、ずーっと逃げ続けていきましょうか」

そういいながら屈託なく笑うひよのに、呆れとも諦めともつかぬため息を吐く歩。

「で、逃避行の末、もう駄目だ、逃げられない……とかいって無理心中の結末か?」
「…そんな暗い結末は嫌ですけどね。まあ、その可能性もありますが、私としては……」

ひよのの真っ直ぐな視線が、歩に向けられる。そして満面な笑みを浮かべながらひよのは答えた。

「逃げるとこまで逃げて、どこかでひっそりと暮せるところ見つけて、小さな家を建てて、
 生きられるところまで生きていきたい、逃避行の結末としてはありがちですが、それが願望です」

あまりにも率直な言葉に、歩はしばし時を忘れたように呆然とした。そして、相変わらずひねくれた返答を返す。

「出来ればな」
「でも、それもいいと思いません?」
「まあな」

そうして再び雑誌に視線を戻す歩に、ひよのは笑顔を崩さず口を開いた。

「鳴海さん」
「なんだ?」

ひよのは小さく微笑み、そして呟くように言った。

「幸せになりましょうね」


願わくば、あなたが泣くことがないように。
願わくば、あなたに幸せな未来が訪れるように。
願わくば、ずっと一緒に歩いていけるように。



歩はひよのを見やり、そして静かに微笑む。


「……そうだな」


まだ見ぬ未来の可能性と幸せな結末を信じて。




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つーか。
ラブ度低っ。


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